大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(く)86号 決定

少年 M(不明)

少年 N(不明)

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件各抗告理由は、附添人弁護士O名義の「抗告申立の追加」と題する書面に記載のとおりで、これに対し当裁判所は次のとおり決定する。

論旨第一、二点。

所論はM、N両名の行為によつてR子が傷を負つたかどうか明らかでないに拘らず、原決定は同女が傷を受けたと認め、刑法第百八十一条、第百七十七条を適用したのは重大な事実の誤認であり、原決定に影響を及ぼす法令の違反があると主張する。しかしR子がM、Nに強姦され、処女膜裂傷を受けた事実は記録上明白である。M、Nと共に同人らのR子に対する本件犯行と同一の行為があつたのではないかとの疑の存するSに対し浦和地方検察庁は単なる強姦事件として処理し、(従つて強姦致傷の事実を含むか否かは単なる事件名だけでは明らかではないが、ともあれ一応強姦致傷事件となつていないのである)これを不起訴処分にしていることが記録上認められないではない。しかしSの司法警察員に対する供述調書謄本によると、SはR子に対する強姦の実行々為に着手したが同女の顔をみると、近視眼で眼鏡をかけていた同女が眼鏡の玉をなくしており、一見異常な顔貌に見えたので怖しくなり同女の右側に並んで横になつただけでそれ以上の行動をしなかつたものと認められ、R子の司法警察員に対する供述調書謄本、T、M、Nの司法警察員に対する供述調書には右認定に反する趣旨の供述が存しないではないが、R子は多数人から姦淫され心理的に平静な状態であるとは期し得られない立場にあり、同女がL即ちUからも姦淫されたことを供述していることは正確な事実を述べていると認められず、况んやU、M、Nらの観察は夜間いくらか離れた地点からSの行動を推察して述べているところであり、これ又誤りないものとの保証はできない。してみればSはR子を姦淫していないものと断定するのが相当で、従つて亦同人がR子に対し処女膜裂傷を負わしめた事実を認めることもできない。もつとも同人はR子に対する右犯行につきM、Nらと共謀に出たものと認められないわけではなく、従つてSの行為によつてR子の致傷の結果を招いたとはいえないとしても、R子がNらの強姦行為によつて傷を受けた事実がある以上、Sも共謀による共同正犯として致傷の結果についても責任を負うべきことは法律上当然の事といわなければならないが、Sの行為の法律的評価はともかくとして同人がR子に対し強姦行為がなく傷を負わしめている事実が認められないことをその情状として斟酌し不起訴決定をしたと解せられないことはないし、そのような事実を斟酌することはあながち不当ではないから、検察官がSを強姦事件について不起訴処分にしたことのみを捉え、M、NらもR子に傷を負わした事実がないとすることはできない。又R子を診察し、その処女膜裂傷を診断した医師赤堀道雄は右の傷がいつ発生したのか又それが性交によつて生じたものか否かを明確に断定し得なかつたことは所論のとおりかも判らない。仮にそうとしてもR子がM、Nらにより強姦された際陰部から出血していた事実は否定し得ないところであり、R子の処女膜裂傷は右強姦行為の際生じたものとの認定を妨げる理由とはならない。然りとすれば、原決定には事実の誤認はなく、刑法第百八十一条第百七十七条を適用したことも何等違法ではないから論旨は理由がない。

同第三点について。

所論はM、Nに対する中等少年院送致の処分が著るしく不当と主張するのである。しかし強姦致傷の犯行は性質上その被害者に対する重大な侮辱であり、終生拭うべからざる恥かしめを与えるものであることはいうまでもなく、殊に本件のように数人の屈強の青年が共謀し人気なき場所に被害者を誘い隙をみてその手足を押えつけ、無抵抗の状態にあるのを相次いで姦淫する所為の残虐さは他のどの種の犯行に比して劣るものではない。本件被害者R子が警戒心が足らず、その間乗ぜられる隙があつて多少の責むべき点がないとはいえないからといつて、右犯行の残虐性を寡少に評価することは許されない。殊に近時各地にこの種犯行が続発していることもM、N両少年の処遇につき考慮して然るべきところである。なお所論は右両少年の身辺の環境、特にその雇傭主の温情見るべきものがあり原決定の如き保護処分の必要がないかの如く主張するのであるが、少年の性格の矯正並びに環境の調整などなお暫く関係者一同の努力を俟つの要があると認められるのである。Sが不起訴処分に付されていることは前記の如き理由に基くもので、その事から本件における両少年の処遇が不当に重いとは必ずしもいえない。被害者R子が示談書を提出していることも所論のとおりであるが所論が主張する以上の事由をすべて考慮しても原決定の処分は正当であり、論旨は理由がない。

よつて本件抗告は理由がないから少年法第三十三条第一項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 加納駿平 判事 足立進 判事 山岸薫一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例